みなさんは「失敗の本質 日本軍の組織論的研究」という本をご存知でしょうか?
1984年に戸部良一さんらが共同執筆したこの本は、70万部以上売れたビジネス書の名著です。タイトルを見ると戦争、軍事の話かな?と思うかもしれませんが、実はビジネスパーソンにとっても非常に参考になる内容なんです。
この本の面白いところは、第二次世界大戦で日本軍がなぜ失敗したのかを、単なる戦争の話としてではなく「組織」という視点から分析しているところにあります。個々の戦術や戦略のミスではなく、組織の構造や文化といった根本的な問題に注目し、現代の企業組織が同じ過ちを繰り返さないための教訓を引き出そうというわけです。
この記事では「失敗の本質」がなぜ今でも多くのビジネスパーソンに読まれているのか、そして戦略の立て方、意思決定の仕方、組織運営、リーダーシップなど、ビジネスに直結するテーマから学べる大切な教訓を探っていきたいと思います。
Contents
「失敗の本質」から学べる7つの教訓
「失敗の本質」では、ノモンハン事件、ミッドウェー作戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ海戦、沖縄戦という6つの敗北作戦を分析しています。著者たちは単なる戦闘の失敗ではなく、「組織としての日本軍」の問題点を徹底的に調べ、その教訓は現代のビジネス組織にも十分当てはまる内容となっています。
これから具体的にどんなテーマが取り上げられているのか、そしてそれが今のビジネスにどう関係するのかを見ていきましょう。
戦略目標を明確にする
「失敗の本質」で指摘されている大きな問題点の一つが、戦略目標の曖昧さです。日本軍は長期的に何を目指すのか、個々の作戦で何を達成したいのかがはっきりしておらず、これが現場の混乱と組織全体の連携不足を招きました。
例えば、ミッドウェー作戦では「ミッドウェー島を攻略する」ことと「アメリカの艦隊を誘い出して撃破する」という2つの目的があったのですが、どちらが主目的なのかが曖昧なまま作戦が進められ、結局どっちつかずの中途半端な状態で大敗しました。
これは現代のビジネスでもよくある話です。「売上を伸ばしたい」「顧客満足度を上げたい」「コストを削減したい」など、複数の目標の優先順位をつけずにすべてを追いかけて、結局どれも中途半端になってしまう。
戦略目標が曖昧だと、部署ごとにバラバラな方向に力を入れたり、限られた経営資源を無駄遣いしたりするリスクがあります。
過去の成功体験に縛られない
「昔はこれでうまくいったから」という考え方は、実は大きな落とし穴になりかねません。本書では、日本軍がまさにこの落とし穴にはまった様子が描かれています。
日本軍は日露戦争などでの勝利体験を引きずり、その成功パターンを続けようとしました。本書では、これを「学習棄却ができない」と表現しています。つまり、過去に学んだことを必要に応じて「捨てる」ことができず、環境が変わったのに古い成功法則にしがみついてしまったわけです。
例えば、陸軍は「白兵戦こそが勝利の鍵」という考えを捨てられず、海軍も「大艦隊での一大決戦」という古い戦略にこだわりました。しかし航空機という新しい戦力が重要になっていたのに、その変化に対応できませんでした。
これはビジネスの世界でもよく見られる「成功の罠」そのものです。デジタル化の波に乗れなかった企業や、顧客の価値観の変化に対応できなかったブランドの衰退は、まさに現代版の「学習棄却の失敗」と言えるでしょう。成功体験は大切な資産ですが、それに縛られすぎると逆に足かせになることもあるのです。
組織的に学習をする仕組み
「失敗から学ぶ」って口で言うのは簡単ですが、実際にできている組織は意外と少ないものです。「失敗の本質」が指摘するように、日本軍はまさにこの「失敗からの学習」が上手くありませんでした。
対するアメリカ軍は失敗すると、すぐに原因を分析して「次はこうしよう」と戦略や戦術を見直していきました。一方の日本軍は、同じような失敗を何度も繰り返してしまう傾向がありました。日本軍の「反省部屋」では、本当の学習よりも「気合いが足りなかった」といった精神論や「誰のせいだ」という責任追及に重点が置かれがちだったようです。
これは今の会社でも似たようなことがあるかもしれません。プロジェクトが失敗したとき、「なぜ失敗したのか」を冷静に分析するよりも、担当者の責任を追及したり「もっと頑張ればよかった」という表面的な反省で終わってしまうケースはないでしょうか?
本当に大切なのは、失敗を「次に活かせる学び」に変えることです。そのためには、責めるのではなく原因を客観的に分析し、その結果を組織全体で共有する仕組みが必要になります。
「空気」より「事実」
「空気を読む」って日本人の得意技と言われますが、「失敗の本質」では、この「空気」が実は大きな落とし穴になっていたことが指摘されています。
日本軍の意思決定の場では、客観的なデータや論理的な分析よりも、その場の「空気」や感情が優先されることが多かったんです。「今さらこんなこと言ったら場の雰囲気が悪くなるな…」といった心理が働いて、本当は言うべき異論や反対意見が封じ込められてしまう。
例えば、作戦の計画段階でリスクを指摘したい人がいても「そんな弱気なことを言うなんて!」という雰囲気があると、誰も反対意見を言えなくなり、十分な検討がされないまま感情的な判断で作戦が決行されることになるわけです。
これは今の会社の会議でも起きています。上司の企画に問題があると思っても「空気を読んで」黙ってしまったり、「みんな賛成してるし…」と流されたりして、本来なら避けられたはずの失敗をしてしまうこともあります。大切なのは、「空気」より「事実」を優先する組織文化。失敗を避けるためには、時には「空気を読まない勇気」も必要なのかもしれません。
情報分析と共有する仕組み
情報って組織の血液のようなものですよね。必要な場所に必要な情報が流れないと、組織全体の健康が損なわれてしまいます。「失敗の本質」では、日本軍がこの「情報の流れ」をうまく管理できていなかったことが指摘されています。
具体的には、重要な情報を集めること、それを適切に分析すること、そして組織全体でその情報を共有することが不十分でした。例えば、ミッドウェー作戦の際には、アメリカ軍の実際の戦力について情報があったにもかかわらず、「そんなはずはない」と過小評価され、その情報が意思決定者や現場の指揮官に十分に共有されなかったため、実態にそぐわない作戦立案につながってしまいました。
これは今のビジネスシーンでもありがちな話です。市場の変化を示すデータを「うちの顧客はそうじゃない」と無視したり、重要な情報が特定の部署だけにとどまって、本当に必要としている人に届かなかったりすることもあります。
今の時代だからこそ大切なのは「何が重要な情報か」を見極め、それを適切に分析し、必要な人が必要なタイミングで共有できる仕組みづくりです。
トップダウンだけでなくボトムアップも必要
「現場を知らない人が机の上だけで決めたプランって、なんだかうまくいかないことが多いですよね」と思ったことはありませんか?「失敗の本質」では、日本軍がまさにこのパターンで苦労していたことが描かれています。
日本軍の作戦計画は、東京や他の遠く離れた司令部で、現場の状況をあまり把握していない人たちによって立てられることが多く、トップが決めたら絶対的な命令となり、現場の指揮官が「これは無理です」と思っても、なかなか意見を言えない環境がありました。
実際に敵と対峙している最前線の指揮官は「敵の戦力はこれくらいある」「この地形では作戦が難しい」といった生の情報を持っていたのに、そうした現場の声が上層部に届かなかったり、届いても無視されたりして、現実離れした作戦計画が実行され、失敗につながったケースが少なくありませんでした。
これは現代のビジネスでも同じです。顧客と直接接している販売スタッフや営業担当者の声が経営層に届かないまま、新製品開発や事業戦略が決まってしまうことがあります。効果的な組織運営には、トップの明確なビジョンと同時に現場の声をしっかり吸い上げる「ボトムアップ」の流れも必要不可欠です。
失敗から学ばないことこそ失敗
失敗って誰にでもありますが、その失敗をどう扱うかによって、その後の展開が大きく変わってきます。「失敗の本質」が教えてくれるのは、日本軍には「失敗から学ぶ」という文化があまり根付いていなかったということです。
例えば、ある作戦で失敗しても、「なぜ失敗したのか」を冷静に分析するよりも、「気合いが足りなかった」とか「運が悪かった」といった表面的な理由で片付けてしまう傾向がありました。また、古い成功パターンを手放せない「学習棄却」の問題も、失敗から学べない文化と深く関係しています。
これは会社でもよくある光景です。プロジェクトが上手くいかなかったとき、本当の原因を探るより「予算が足りなかった」「時間がなかった」といった言い訳で済ませたり、失敗を隠したりして、結局何も変わらないままになっていることはないでしょうか?
健全な組織文化には「失敗は成長のチャンス」という考え方が欠かせません。失敗を責めるのではなく「次に活かせる教訓は何か」を探る姿勢、「誰のせいか」ではなく「何が問題だったのか」に焦点を当てる分析力が重要です。
失敗自体は悪いことではなく、そこから学ばないことこそが本当の失敗なのかもしれませんね。
現代のビジネスパーソン必読の名著
「失敗の本質」が書かれたのはずいぶん前なのに、今のビジネスリーダーや働く人たちの心に響き続けているのは、組織の中で起きることについて、時代が変わっても変わらない大切な気づきを教えてくれるからです。
特に「日本の会社の特徴」として、変化を嫌がったり、話し合いが足りなかったり、上の人だけが決めるといった問題は、今の日本の会社でもまだまだ見られますよね。
「失敗の本質」からは戦略の立て方や決断の仕方、学ぶこと、人をまとめることについての教えは、どんな業界でもどの国でも、成功するための大切なヒントが詰まっている1冊です。
すべてのビジネスマンが読むべき1冊です。
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